牛肉のその先へ
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代替肉というものをご存じでしょうか。
現在代替肉のマーケットは世界中から注目の的です。矢野経済研究所が昨年5月に発表した代替肉市場に関する調査では、世界の市場規模は2021年は3,000億円規模にまでなると予測されており、更に2030年には約7倍の約1.9兆円にまで成長すると予測されています。(矢野経済研究所 代替肉(植物由来肉・培養肉)世界市場に関する調査を実施(2020年))
代替肉は大きく分けて2つの種類があり、「植物肉」と「培養肉」に分類することができます。
植物肉とは
植物肉とはその名の通り植物由来の肉で、大豆や小麦、エンドウ豆やこんにゃくから生成された肉の代替物を指します。カリフォルニア州にある「Beyond Meat(ビヨンドミート)」はこの市場のトップランナーの1社です。彼らは牛肉のすべての構成要素を分子レベルで洗い出し、植物由来の素材でそれを再現することで牛肉と遜色無いものを作り出しています。
ビヨンドミートと対をなすのが同じくカリフォルニア州を拠点とする「Impossible Foods (インポッシブルフーズ)」です。彼らは植物由来の素材に血液を赤くし酸素を運搬する鉄の分子から構成されるヘムという物質に着目し、肉々しさを追及することに秀でています。
(出典 - https://www.beyondmeat.com/)
培養肉とは
牛などの動物から取り出した少量の細胞を、動物の体外で培養して増やすことで生産される肉のことです。代表的な企業に「IntegriCulture (インテグリカルチャー)」があります。彼らは低コスト細胞培養プラットフォーム「CulNet System」というものを作り上げ、肉以外の食品や化粧品など様々な分野への展開を期待されています。
(出典 - https://integriculture.jp/)
環境問題への切り札
代替肉が普及する理由として挙げられるのが環境問題への効果です。
肉(特に牛肉)はそのサプライチェーンに置いて大量の温室効果ガスを排出します。
牛から生まれる温室効果ガス
マイクロソフトの創業者であるビル・ゲイツが自身のウェブサイト「Gates Notes」で発表した有名な調査があります。世界中の牛から排出される温室効果ガスを合算して各国の排量と比べた場合、牛は中国、アメリカに続いて第三位にランクインします。牛は成長過程で大量の穀物を食べますが、それらを消化する際に温室効果がCO2の25倍もあるメタンを発生させゲップとして空気中に排出します。(Climate change and the 75% problem)
(出典 - https://www.gatesnotes.com/energy/my-plan-for-fighting-climate-change)
メタンガスの排出以外にも、牛肉を生産するまでの過程で環境問題に悪影響を及ぼします。
畜産地の確保
世界規模での人口増加に伴い将来的に牛肉の消費量がいまより高まると、より多くの牛を飼うための畜産地が必要になります。同時に牛が食べる穀物の需要も高まるため穀物を栽培する場所の確保も必要になりますが、多くの場合において土地の確保は森林を伐採することで賄われます。畜産を含める工業型の食料システムが森林破壊の原因の80%を占める。という調査が出ているほどです。( Greenpeace livestock vision towards 2050)
大量の水消費
牛肉を生産する過程で大量の水を消費することも問題視されています。牛肉1kgを生産するのに必要な水は20,600Lで、家庭用のバスタブ93杯分に相当します。(東京大学生産技術研究)穀物の栽培や牛の飲み水、牛肉の加工が主な用途です。
これらの問題に対しBeyond Meat社は植物肉が牛肉とくらべて圧倒的にサステナブルであると以下の数字と共に発表しています。
99% 水の削減
93% 土地の削減
90% 温室効果ガス削減
46% 電力削減
健康への効果
代替肉の中でも特に植物肉は人にもたらす健康効果にも着目されています。
同じくBeyond Meat社の発表によると、Beyond Buragerという植物肉を使ったハンバーガーは通常のひき肉をつかったハンバーガーと比べ以下の効果があると述べています。
35% 脂質の削減
35% 飽和脂肪酸の削減
豊富なプロテインと鉄分
コレステロールフリー
牛肉に比べると植物肉は非常にヘルシーだと理解できるでしょう。2015年にWHOが「ソーセージやハムといった加工肉には発がん性物質が含まれている」と発表したことも、植物肉を選ぶ人が増えている要因のひとつです。
一方、植物肉が本当に健康かどうかは様々な観点から疑問を投げかける調査もありますので、デメリットも理解した上で試してみるとよいでしょう。
日本でも代替肉は既に多く流通しています。日本ハム、伊藤ハム、マルコメ、大塚食品などが植物肉ベースの商品を出しており「大豆ミート」という名前で商品化されていることが多いです。
イオンなどの主要スーパーで見つけることができますので、ぜひ皆様も牛肉のその先の世界を体験してみませんか?